2000年には1g辺り1千円が25年で14倍 消費税率アップならさらなる恩恵

「金の価格が上がっている」というニュースをよく耳にするが、金は税金的には恩典もあり長期保有ならメリットも多い。今回は、今から金を購入する場合、また、これまで金を保有してきたけど売却は今がいいのか、将来を見越した相続対策で金はどう?など、相続対策や投資における税金面から“金”の使い勝手を紹介したい。
イスラエルとイランの攻撃の応酬激化を受けて「安全資産」とされる金の価格が上昇している。国内の金価格の指標となる田中貴金属工業が2025年6月16日朝、公表した小売価格は、1グラムあたり1万7678円で最高値を更新した。最高値更新はイスラエルによるイランへの攻撃が伝わった6月13日に続き2営業日連続。実は、金価格は2000年に入ったときは1千円をやっと超えたところで、20年前の2004年末1500円を超える。実に20年で約10倍まで価格を上げているのだ。 この期間、日本の銀行に預金をしていても、ほとんど金利が付いていないのだから、それと比較したら金を買ってた人は、投資という意味では“勝ち組”だ。
金は「5年超」寝かせておくと税金的にも熟成
コロナ禍に入った2020年の金の価格は、約6千円程度だった。あれから5年で1万円以上値上げした計算だが、実は税金的に見ると、この「5年」の意味は深い。個人の場合、金を購入後、5年以上所有していたか、それ以前に売却したかで税金に大きな差が出てくるためだ。
具体的に金を売却する際の税金について解説する。金を売って儲けたら、税金的にはその儲け分を「売却益(譲渡益)」と言う。この売却益に、株投資や外貨投資など、ほかの投資と同じように税金がかかってくる。しかし、株投資や外貨投資と金が違うのが「控除」があること。
金を売却して儲けた場合は、その実態により所得は「譲渡所得」「事業所得」「雑所得」のいずれかで判断するが、ビジネスパーソンなどの給与所得者である個人であれば、「譲渡所得」に分類され、税金計算に当たっては、給与などのほかの所得と合わせて総合課税の対象となり、所有していた期間に応じた控除が適用される。
前述した“5年”というのは、この「期間」の部分だ。具体的には、 購入後5年以内に売却したら、専門用語では「短期所有」というが、譲渡益から特別控除分50万円を控除した金額が短期譲渡所得とされ、課税の対象になる。
一方、購入後5年を超えて所有し、その後、売却した場合、これを「長期所有」というが、譲渡益から控除分50万円を差し引きした金額を長期譲渡所得とし、さらにその半分の金額が課税の対象になる。つまり、金を5年超寝かせておけば、税金が半分になるというわけだ。
<短期譲渡所得の税金計算>
「金を売った金額」-「金を購入した金額」-「特別控除50万円」
<長期譲渡所得の税金計算>
『「金を売った金額」-「金を購入した金額」-「特別控除50万円」』÷2
例えば、2020年4月に1グラム当たり7千円で200グラム、140万円分の金を購入したとしたら、2025年6月に売却することで、2025年6月には1グラム当たり1万7千円だったとすると340万円で売れたことになる。
つまり、「340万円-140万円-50万円」÷2=75万円が長期譲渡所得となる。
この175万円が総合課税の対象となり、他の所得に合算される。年収800万円なら875万円の所得として税額が計算される。
これが短期譲渡所得なら2分の1にならないため、150万円が年収800万円に合算され950万円が所得となり税額が計算される。
総合課税の場合、5年超金所有なら
「6,950,000円~8,999,000円」まで税額23%-控除額636,000円
なので、
8,750,000×0.23-636,000=1,376,550円が税金。
一方で、5年以内に売却していれば、
「9,000,000円~17,999,000円」まで税額33%-控除額1,536,000円
なので、
9,500,000×0.33-1,536,000=1,599,000円が税額
つまり、“5年”の所有を基準に、税額で222,450円の違いになってしまうわけだ。
“金の墓”には税金がかからない!?
さて、金といえば、相続財産の一つとして検討する人も多いようで「仏具なら相続税がかからないと聞いたけど本当なの?」と質問されることがある。
実際に東京の銀座あたりの金商品を販売するお店では、純金のリンを作ってくれたり、販売している。
日本は、宗教法人のお布施が代表格だが、新興に絡んだことは基本的に非課税だ。仏具も宗教的な意味が強いことから、純粋な目的なら税金はかからない。
相続税法にその根拠があり、相続税法第12条には「次に掲げる財産の価額は、相続税の課税価格に算入しない」とあり、「墓所、霊びよう及び祭具並びにこれらに準ずるもの」をあげている。
歴史的に、全国各地の寺院では、随所に金が使われてきている。仏像はもちろんのこと、本堂内陣は金ピカだ。これは、寺院空間を極楽浄土に見立てて荘厳にする意味からだが、その最たる寺院が、京都の鹿苑寺金閣や、岩手県平泉の中尊寺金色堂、栃木県日光の輪王寺大猷院。東京・芝の増上寺の内陣も黄金に包まれている。
こうした歴史もあり、純金製の仏具も「祭具」として認められている。純金の仏具の代表各は「おりん」だ。「チーン」と鳴る部分が純金で、数百万円どころか数千万円というものもある。仏具店では、要望があれば数億円のリンだって作ってしまう。
その他にも、純金の五具足と呼ばれるもの(花立、火立、香炉の5点セット)もある。
こうした仏具は、普段の礼拝の道具として用いる限り、相続税の対象にはならない。だから、相続対策として「金」の仏具を薦める税理士などの専門家もいる。
ただ、絶対に「仏具 = 非課税」というわけではない。この部分で税務署ともめることも多い。
また、金の仏具をお金に代えようと売却してしまったら、その時点で譲渡所得として税金が発生してしまう。
そもそも、例えば、1千万円で金のおリンを作り、残していたとしても、実際のところこの1千万円の中には製作費なども含まれ、売却となれば売る先の問題もからみ手数料等が掛かる。もちろん、相続人がこれを売却したら、その時点で税金が発生してしまう。金取引をしている業者を避け、売却したことが税務署に分からないようにしたとしても、質屋の買い取り価格はかなり低くなってしまう。というより、国内で金取引があれば税務署に情報が行く仕組みになっているため、そもそも金取引は隠せないようになっている。先般、日本橋高島屋(東京都中央区)で開かれていた「大黄金展」会場で、販売価格約1040万円の純金製茶わんが盗まれ、古物買い取り店に約180万円で売却後、約480万円で転売されたことが警視庁の調べで明らかとなったが、金の売買は分かるようになっているのだ。
ということで、金を「仏具」に形を変えて相続対策しても、手元に残る現金という見方をすれば、ほとんど効果がないと言える。
消費税率がアップする前なら金投資
今後、投資商品の一つとして5年、10年というスパンで金を持ち続けるのであれば、覚えておきたいのが「消費税」との関係だ。もう一つ税務上の恩典を受けられるかもしれない。
直ぐにではないにしても、将来的に消費税率は上がることが考えられる。知らない人は多いが、消費税率アップを逆手にとって稼げるが実は金なのだ。
金は、購入時に消費税を支払うが、売却時には逆に消費税を受け取ることができる。つまり、現在、10%の消費税が将来15%になったとしたら、増えた5%分の消費税だけ得をすることになるのだ。
例えば、1千万円分の金を購入したとき、消費税込みで1100万円を支払ったとしたら、売却時にこの値段が動いてなかったとしても消費税込みで1150万円を手にすることができる。仮に取引価格が2倍になっていたとしたら、消費税込みで2300万円を手にすることができる。金の値上がりと1千万円と消費税分200万円を儲けたことになるわけだ。
世のなかには多くの金融商品があるが、金は「個人が消費税の恩恵に浴することができる数少ない金融商品」だ。投資の面から見れば、消費税が上がると思ったら金は「買い」。消費税引き上げ前には金を買う、この投資家の動きは今後も起こると思われる。