民法改正で注目 相続で活用したい「おしどり贈与」の有効活用

民法の相続に関する部分が40年ぶりに改正され、今年7月1日からは長年連れ添った夫婦に適用される、通称「おしどり贈与」の“先渡し”に関する規定が見直された。
従前は、「おしどり贈与」を含め、生前贈与した不動産などの財産は相続財産の“先渡し”があったものとして取り扱い、遺産分割の対象として相続発生時の相続財産の分割の際には、生前贈与した分も合算して計算していた。
これが7月1日から、不動産の「おしどり贈与」に関しては、“先渡し”とはならず、相続税申告時の相続財産の計算に合算されないことになったのだ。正式名称は、「持ち戻し免除の意思表示の推定」(改正後民法903条4項)。
“先渡し”に含まれるか否かで影響していくるのが、相続税額と相続人から遺留分減殺請求があった場合のゴタゴタだ。
相続税額については、先渡し分が含まれなければ、相続財産額が低く抑えられるため、納税額は少なくなる。
遺留分については、民法に規定されたもので、遺族である法定相続人にあたる人が、全く財産をもらえず生活に困窮してしまうことがないように、最低限の財産の相続を認めているもの。遺留分の割合は、①直系尊属(例えば両親)のみが相続人の場合は、相続財産の3分の1、②それ以外の場合は相続財産の2分の1、③兄弟姉妹はなしーとなっている。
つまり、民法では、「おしどり贈与」で渡された不動産であっても、相続財産に含まれてしまい、遺留分の請求があれば、不動産の評価額を含めた合計額から遺留分の財産を引き継ぐことになっていたわけだ。
ただ、勘違いしがちなのが、税法上の「おしどり贈与」の取り扱いは、“先渡し”に関しては相続財産の額に含まれないことになっている。つまり、今回の民法改正では、税法に取り扱いを合わせた格好というわけだ。

ちなみに、税法上の「おしどり贈与」の規定は、①居住用不動産(土地を含む)や②居住用不動産を取得するための金銭で、婚姻期間20年以上の夫婦で1回だけ、贈与税の申告をすることにより、暦年贈与の年間110万円の控除額とは別に最高2千万円までの配偶者控除が受けられる。
また、相続税の申告では、基本的にはその相続の開始前3年以内に相続人が贈与により財産を取得していたら、その価格が相続税の課税価格に加算されることになっているが、この「おしどり贈与」の2千万円の配偶者控除を受けていれば、この特例の限度額の範囲においては加算されない(相法19①②)。
税務実務からすると、この「おしどり贈与」を利用するに当たっては、基本的には贈与税の申告(相法21の6①②)及び、幾つかの書類の添付が必要。居住用不動産の登記事項証明書や財産の贈与を受けた日から10日以降に作成された戸籍謄本または抄本などだ。ただ、平成28年以後の「おしどり贈与」では、添付書類において贈与登記後の登記事項証明書に代えて、贈与契約書等の写しを添付してもよいとされ、贈与税の申告に当たり必ずしも登記が必要条件ではなくなった。
手続きが簡素化されたことで注意が必要なのが、相続税調査シーンにおいて、先渡しされた不動産の管理支配権が誰にあったかという確認が行わる可能性が高くなったこと。税務署から被相続人が実質管理者だと判断されると、贈与したものと認められない可能性があるのだ。そのため、贈与の事実が第三者の目にも明らかな形に整えておくことはが重要だ。たとえば、実際に贈与を受けた側がその不動産にかかわる経費、例えば固定資産税などの支払いを行うなどの資料証拠だ。

さて、今回の「おしどり贈与」に見直しは、国民にとってどのようなメリットがあるのだろうか。
税務面ではすでに、「おしどり贈与」の非課税と共に、配偶者の相続分の非課税枠も1億6000万円までか、配偶者の法定相続分相当額まで認められている。「おしどり贈与」すれば、最大2千万円が相続財産から外れ、相続時の課税対象額を引き下げることとなり、相続税額の圧縮に繋がる。
また、相続財産のメーンが不動産であれば、「おしどり贈与」しておくことで、居住用の不動産は守られることになる。というのも、相続税の納税は原則現金となるため、現金がなければ不動産が売却して換金する必要が出てくる。遺留分の請求があった場合も、渡す現金がなければ、不動産を売却するなどの手段を取らざるお得なかった。売却できない居住用不動産を相続財産から外すことのメリットは大きいわけだ。
いずれにしても、「おしどり贈与」も税制面だけでなく、家族や兄弟間の関係も考慮して、有効活用していかなければ、“争族”の火種になりかねない。被相続人が元気なうちに相続について、相続人と一緒に話し合っておくことが最も重要だ。