仮想通貨(暗号通貨)  参院財務金融委員会で「雑所得」から「譲渡所得」に変更すべきと指摘 

仮想通貨は現在、税務では「雑所得」として処理することになっているが、5月14日の参院財務金融委員会で「譲渡所得」に変更するべきではないかという議論が持ち上がった。取り上げたのは、日本維新の会の藤巻健史議員。雑所得から譲渡所得になると、納税者にどんな影響があるのか、なんでこんな議論が持ち上がったのか考えてみたい。
雑所得は所得税法上、「利子所得」「配当所得」「事業所得」「給与所得」「不動産所得」「退職所得」「山林所得」「譲渡所得」「一時所得」のいずれにも該当しない所得を「雑所得」として処理することになっている。つまり、雑所得は他の所得概念とは違い、税区分として「その他」的な扱いなのだ。具体的には、公的年金やサラリーマンが副業で得る原稿料、講演料などがそれに該当する。
雑所得は総合課税であり、利益が大きければ大きいほど、高い税率が適用されることとなる。つまり、最高税率が適用されると「所得税45%+住民税10%=55%」となるのだ。計算方法としては、「収入―必要経費」で、ここでマイナスが出ても、ゼロまでしか差し引くことができず、損失の繰越はできない。
一方で譲渡所得は、土地や建物、株式、ゴルフ会員権などの資産を譲渡することによって生ずる所得とされており、要するに「資産」の「譲渡」による所得が譲渡所得とされている。譲渡所得は譲渡資産の種類と所有期間などによって幾つかに分類され、税額の計算方法も違ってくる。

譲渡所得の分類(図表)

図表の通り譲渡所得は分類され、譲渡所得は損失が出たときは原則として他の所得と通算することができる。
つまり、雑所得と譲渡所得の違いで考えたとき、利益が出ているときは譲渡所得であれ雑所得であれ、結果は変わらないものの、損失が出たときに原則として大きな違いがでてくるため、譲渡所得か雑所得かの議論が注目されるわけだ。
今回の藤巻議員の質問の発端は、5月9日に開催された参院財務金融委員会での黒田治彦日銀総裁の発言に起因する。藤巻議員が暗号資産をどう考えるかと質問したところ、黒田日銀総裁は「暗号資産は法定通貨ではなく、現状支払い決済には使われておらず、ほとんどが投機の対象となっている」とし、「このため国際的な議論においても、通貨という呼び方は避け、暗号資産と呼ばれることが多くなっている」と説明。そして、「日本銀行は暗号資産が支払い決済への人々の信任を損なうことがないかといった、中央銀行としての観点から、引き続きその動向を注意して見ていきたい」との意向を述べた。
こうした黒田日銀総裁の発言を受けて藤巻議員は、「黒田日銀総裁も事実上、支払い手段としては使用されていないのだから、実態に即して税制を変更するべきことではないか」「租税法の最高権威者である金子宏先生が解釈によっては“暗号資産は譲渡所得になり得る”との学説も提唱していることから、逆に国際庁は、譲渡所得にならないという反論を示すべきだ」と意見をしたのだ。
これに対して国税庁は、学説ではさまざま意見が出されていることから、そこに意見をはさむことは控えるとして、雑所得か譲渡所得かの議論については避ける態度を取った。また、国税庁は「名称を“仮想通貨”から“暗号資産”に変更するが、定義が変更されるものではない」として、「資金決済法上、対価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる財産的価値として規定される」、「消費税法上も、支払い手段として位置付けられる」と答えた。そして、「現行の“雑所得”としての取り扱いを変更する必要はない」との見解を示した。
現状のところ国としては、暗号通貨の課税区分の変更は念頭においておらず、有識者や実務家の間で、さまざまな議論がされているに過ぎない。とはいうものの、今回、立法の場に仮想通貨の課税区分が持ち上がったことは、貴重な第一歩と言える。経済的な側面では、競争にブレーキをかけてはいけないという点では政策的にも行政的にも一致しているだけに、今後の課税区分の根拠となる議論がどういった方向に進んでいくのか注視したい。