仙台国税局 福島除染会社の役員報酬30億円を”過大”と判断    税務上は疑問残る否認行為

4月16日の読売新聞の報道によると、原発事故の除染作業を手がける「相双リテック」(福島・いわき市)は、仙台国税局から2016年12月期までの3年間で約30億円の申告漏れを指摘されたという。同社は、合計約76億円の役員報酬を計上していたが、これが「高額すぎ、全額の経費算入は認められない」と判断された。

報道によると、同社は福島県大熊町内での国直轄の除染と関連工事を大手ゼネコンから1次下請けで受注。その多くが清水建設だった。原発事故後、17年度までに大熊町で発注された国直轄の除染業務は5件で、発注額は合計で500億円超。いずれも清水建設が単独か共同事業体(JV)で受注している。

清水建設からの受注で同社の業績は拡大、売上高は12年の約19億円から、14年は約48億円、15年には約111億円、16年は約105億円。売上総利益は14年が約25億円、15年が約61億円、16年が約56億円。その中から役員7人に支払われた報酬総額は、14年が約14億円、15年が約19億円、16年が43億円に上った。役員報酬の大半は、代表取締役会長に支払われており、利益を合計約44億円に抑えていたとされる。

同国税局は、福島県内になる他の複数の同業他社の役員報酬や職務内容を調査。同業他社と比較して役員の報酬が高すぎるとして、会長の役員報酬のうち、約30億円について経費算入を認めなかったとされる。追徴課税(更正処分)は約8億円で、同社は課税を不服として国税不服審判所に審査請求している。

以上がこの報道の内容だが、税務面からみると、色々な問題が浮き彫りになってくる。税金を使って発注された事業のうち、売上総利益の半分を役員報酬として支払っているのは「道義的にどうなのか」との疑問も投げかけたいところだが、それはひとまず置いといて、これが一企業の営業活動で得たものとだけ考えたら、自由競争で稼いでいる民間企業の役員報酬に課税当局が“過大”だと判断することは適切なのかどうか疑問を感じる人も少なくないだろう。役員退職金なら、節税効果も高いため、課税当局が過大かどうかを指摘するのも分からないではない。しかし、役員報酬に関しては、その金額が高かったとしてもそれに見合った所得税を納税している。今や法人税より所得税の方が税率が高いほどだ。

今回の課税当局の否認は、法人税だけの問題だから、所得税に関してはいじっていないため、否認されたら企業として、役員報酬の一部が損金処理できなくなるため大きな打撃だ。個人的な感想では、「見せしめ的な要素が強い」とは思うものの、こんなことが通常まかり通ったら、自由競争も民主主義もあったもんじゃない。

ところで、課税当局では、報酬などの適正か否かを判断するとき、地域などを限定し、同業他社を幾つか選び適正かどうかを検討していく。今回も同様に同業他社と比較したとの報道がされているが、一見、公平に見えるこのやり方も、課税当局は同業他社の情報を得られる一方、そうした情報が得られない民間企業はとっては、そもそも利用できる情報量ということで公平ではないと感じるのは、筆者だけでなはいだろう。また、役員報酬が同業他社と横並びでなければならないという理由自体、社会主義国ではないわがが国としては、正当な否認理由になるのか誰もが納得できる説明をしてほしいと思う。

今回の課税当局の否認は、ステージを国税不服審判所に移し争われることになるようだが、同業他社の抽出に関しては、どういった基準で何社抽出したのかが最大の焦点になると予想される。過去の判例では、最高裁も同業他社の抽出による検討を支持しているため、その部分での争いはないと思われるが、このやり方が支持される間は、同様の争いは絶えないだろう。課税当局と民間が同じ情報量の中で議論をぶつけ合える環境整備こそ、今、この問題を考えるとき必要なことだと思う。