税理士事務所 「令和」の時代は大規模化か専門特化が迫られる 

税理士事務所の二極化が進んでいる。売り上げを伸ばしている事務所では、人手不足が深刻な経営課題いなっている一方、従来型の経営から脱皮できていない事務所では、新規顧客の獲得や1件当たりの顧問料報酬の減少に頭を抱えている。二極化の先にある税理士業界に迫ってみた。

日本に税理士制度が出来たのは、戦後の間もない1950年(昭和25年)のシャウプ勧告に基づく税制改革が行われた翌年。申告納税制度が導入され、従来の税務代理士法に代わり税理士制度が新たに設けられた。
税理士は、国側でも納税者側でもない、独立した第三者として適正納税を実現する専門家という特殊な国家資格者としてその役割を果たしてきた。戦後の日本経済の再生・発展とともに税理士事務所は現在のようなマーケットを築いてきたが、昭和、平成という時代を通じて顧客ニーズは変化。2019年5月1日から「令和」という新たな時代を迎え、勝ち残りをかけた税理士業界の再編が本格化しそうだ。
昭和という時代は、複式簿記、申告納税制度など、中小企業経営者にとって煩雑、苦手な部分を補うことで高い報酬を得ることができた。平成に入りコンピュータ会計が進んでくると、“昭和型のサービス”の価値が下がり、高い報酬を得ることができなくなった。平成の中期から後期にかけてIT、インターネット、AI、ビッグデータなど、新たな価値観がマーケットに浸透してくると、税理士事務所に期待する顧客ニーズは多様化、複雑化。ニーズを的確にキャッチして、これに対応できるかが勝ち残りのポイントになっている。実際のところ、売り上げを伸ばしている事務所は、規模を拡大することで税務・会計に関するサービスのワンストップ化を進めるか、専門特化することで、マーケットを絞った戦略を展開している。
昭和から平成初期までは、税理士事務所で職員数が100名を超えるところは全国でも数えるほどしかなく、20名程度居れば中規模事務所と言われていた。それが2001年(平成13年)の税理士法改正による税理士法人制度の導入を契機に、大規模化が進行。現在では、グループ全体で1千人を超える事務所もでてきている。戦略にもよるが大規模事務所になると、クライアントの規模も比例して大きくなり、銀行などの金融機関などからの紹介も増えている。そのため、税理士法人制度の導入以降、法人成りする事務所は年200件ペースで増え、2019年2月末現在で3957件になった。(図表)
税理士法人など、規模の大きい事務所が増えるにつれ、税理士事務所の経営課題の中心は新規事業の創出から、人材採用及び人材育成に。現在では、「人さえいれば、もっと仕事を引き受けられるのに、最近では仕事を選んで受注している」と、売り上げを伸ばしている事務所の代表は言う。
そもそも、税理士業界で働いている人には限りがあるほか、日本全体の人材不足の影響もあって若手ほど採用がスムーズに行かない。今後は少子高齢化の進展で、若手がますます減ると懸念されている。
実際、税理士試験の受験者数は年々減少。受験者数は08年に5万1863人いたが、18年は25%減の3万8525人に落ち込んでいる。
若い年代の受験者が極端に少ないのも深刻だ。18年度の税理士試験受験者は、41歳以上が全体の3割超で、30歳以下は約2割。合格者数も、18年度は41歳以上が37%の247人と最も多く、次いで36~40歳の142人(21%)となっている。36歳以上が合格者全体の約6割を占めているのだ。これは、公認会計士試験の合格者の平均年齢が約25歳であることや、30歳未満の合格者比率が84%と高率なのに比べると、明らかに年齢層が高い。
このように税理士業界では貴重な「若手」人材を、大規模事務所が奪い合う構図になっている。
一方、得意分野を生かして「専門特化」を目指す会計事務所も売り上げを伸ばしている。こちらは、マーケットやサービス内容を絞ることで利益率の高いサービスを提供するか、ニッチな業界でトップシェア築き、優位性を持ってその業界のオピニオンリーダとして売り上げを伸ばしている。
専門特化でこの数年目立つ分野が「相続」。高齢化社会の象徴的なマーケットで、相続件数が増加傾向の中で、課税標準が引き下げられ、課税対象者が急増している。そもそも相続税の申告サポートは報酬も高く、相続税対策や資産運用など関連するコンサルティングまで関与していけば、かなりの報酬を見込めた。ただ、相続マーケットの拡大とともに、報酬価格の崩壊などもあり、申告報酬はかつての20分の1から10分の1程度まで下落。薄利多売の時代に突入している。
相続以外の業種特化型としては、医療分野に特化した事務所が多い。クリニックの報酬はまだ高く、一般企業ほどの値崩れは起きていない。医療分野のマーケットは、病院を筆頭にクリニック、歯科、調剤薬局に分けることができ、専門特化した事務所では1千件を超えるクライアントに関与している。
医療業界ではないが、ペットブームと相まって、「動物病院」をターゲットに専門特化する事務所も少なからずいる。都市部で動物病院は増えており、病院機能だけでなく関連商品の販売も手掛けるケースが増えており、都市部の動物病院は売り上げを伸ばしている。
最近の注目は、国際税務に強い税理士事務所。国際税務は新しい分野だけに特化事務所はそれほど多くないが、大きく分けて日本企業が海外に出て行く支援をする「アウトバウンド型」と、外国の企業が日本に支店を出すときなどにサポートする「インバウンド型」に分かれる。
このほか特化型としては「飲食店」や「理美容」、「都市開発」などもあり、細かく見ていくとかなりの業種・業態に上る。
税理士法人制度が導入されてから17年。税理士事務所は、税務申告という業務から脱皮して、ITやAIでは提供できない税金・会計を切り口にしたコンサルティング領域にビジネスの柱を構築している。大規模化にしろ専門特化型にしろ、新しい「令和」の時代は、このコンサルティング領域で勝負できる事務所だけが残っていくことになりそうだ。