税務署の職員だけが使う“隠語”がある。職員と仕事をしていると、耳慣れてしまうのだが、居酒屋など飲み屋で聞いたら「この人どんな職業?」と思ってしまう。
国税の現場で「オヤジ」と呼ばれる役職者がいるが、オヤジなんて呼ばれるのは任侠道(にんきょうどう)の世界ぐらいだろう。税務署では署長のことを「オヤジ」と呼ぶ。こうした言い方をするのも、税務署は「オヤジを頂点とした一家族である」という、純日本的な考えが根強いからかもしれない。
では、署長が女性の場合なら「お袋」とでも呼ぶのかと思いきや、基本的には「オヤジ」と呼ぶらしい。女性署長の場合、職員から「なんて呼べばよいですか」との確認はあるようだが、“一家の長”は「オヤジ」なので、性別に限らず「オヤジ」になるそうだ。
その税務署は、隠語で「支店」と呼ばれ、監督管理する国税局を「本店」と呼ぶ。サラリーマン社会と任侠の世界の言葉が入り乱れているのだ。税務署によっては、副署長がいるところと、そうでないところがあるが、副署長は一般的に「サブ」と呼ぶ。
税目の呼び方も工夫しており、源泉所得税は「マルゲン」、消費税は「マルケシ」と言う。「マル」部分は強調なのだろうが、「ゲン=源」「ケシ=消」の意味だ。 法人税については「サンズイ」、相続税や贈与税などの資産税は「ニスイ」、所得税は「トコロ」と呼ぶ。頭文字の漢字の部首で示しているわけだ。
こうした独特の国税用語を使うのは、職員同志で飲み屋などに行ったときなど、職場での情報が一般の人に分からないようにするため。居酒屋などで、「オヤジ」などと、サラリーマン風体の人たちが言っていたら、「もしや・・・」と聞き耳立ててみると、「トコロ」「サンズイ」などの単語が出てくるかもしれない。