ドラマのような話だが、税務署は密告、いわゆる“タレコミ”から多額の税金の申告漏れや脱税を見つけることも少なくない。相続税においても同様、この手のタレコミを重視している。
税務署へのタレコミは、われわれが想像している以上に多い。タレコミは、投書や電話、直接税務署に尋ねてくるケースなどさまざまだが、最近は国税庁ホームページに「課税・徴収漏れに関する情報の提供」(https://www.nta.go.jp/suggestion/johoteikyo/input_form.html)という、情報提供を受け付けるページが用意されている。
同ページには、「国税庁では、従来から、一般の皆様より、課税漏れ及び徴収漏れに関する情報を受け付けていますが、それには例えば下記のような情報が含まれます」と事例をあげて情報提供を促している。
情報提供の必須項目は「対象者、氏名・名称(屋号・法人名)、時期・期間、場所、人物(会社)、金額、手段、方法、お持ちの文書等のほか、たとえば、関連する金融機関名や支店名、口座番号などを、具体的にご記入ください」としている。そして凄いのが、「帳簿、領収証、請求書、契約書、預金通帳の写しなど提供する情報に関する書類をお持ちでしたら、対象者の所轄の国税局または税務署に郵送等してください。なお、郵送等いただいた書類等の返却はできませんのでご了承ください」とある。
ここまで詳細情報が取れることは滅多にないのだが、そのなかでも年に数件、劇的な案件にぶつかることもあることから、税務当局としては無視できない情報として、タレコミがあればとりあえず、必ずチェックするのだ。ホームページ経由のタレコミは、関係する国税局・税務署に回付し、税務署等における税務調査等に活用される。
重視しているタレコミだけに、税務署としての事務取扱マニュアルがあるかというと、税務署では統一された事務指針があるわけではないようだ。国税職員によると、税務署に直接こうしたタレコミがあった場合、基本的には「総務課の課長補佐に回す。もし、課長補佐が居なければ総務課の誰かが電話を受ける」と言う。つまり、タレコミ受付の窓口は総務課であり、情報を整理して、法人税や個人課税部門なのか関係部署に連絡していくのだ。所轄が違えば、管轄税務署の総務課に連絡し、聞き取った情報を伝達、対応してもらうと言う。
タレコミの多くは、「恨み」「妬み」「僻み」などから、なんとかして相手を痛い目に遭わせてやろうとする意思があるため、当局としても、調査に取りかかる前に情報の信ぴょう性について検討する。タレコミで最も信頼性の高い情報提供者は、なんと会計事務所。これまで顧問として関与していたものの、オーナー社長にとって耳の痛い指導をしたことで、他の事務所に切り替えられたときなどタレコミがあると言う。顧問税理士を切り替えられた恨みもあるが、「細かなお金の流れを知っている」「不正経理の状況など把握している可能性が高い」ことから、会計事務所の情報提供はかなりの確立で不正発見に手がかりになると言う。
このほか、有力情報として取り扱われるのが、元愛人からのタレコミだ。被相続人が奥さんにも伝えてないことを、愛人には話しているケースが多く、中には隠し金の管理をさせていることも少なくない。現金、預金、有価証券といった隠し財産の保管場所や土地の保有状況などを具体的に聞き出せたら、“ホームラン”も狙える可能性が高いというのだ。ただ、感情的な話が中心になると、調査しても不正発見までつながらないことも少なくないと言う。
税務署の職員は、信ぴょう性の高い情報だと判断した場合は、とにかくその情報提供者に長く、そして多くのことを話させるように工夫する。些細な話から、決め手となる情報が得られる可能性も高く、雑談にも神経を集中している。税務署にとって、情報はいくらあっても多すぎることはなく、帳簿に隠れていないお金や、怪しい取引の流れを突きとめるのが“仕事のできる調査官”といわれる。